食欲を抑える効果や体重を減らす効果が期待できると言われるGLP-1薬剤。
しばしば「エビデンスのある最新医療ダイエットです」という内容の広告や記事も見られますが、「実際のところはどうなの?」と気になりますよね。
そこでこの記事では、GLP-1ダイエットにまつわる医学的根拠についてわかりやすくまとめました。
GLP-1ダイエットは医学的根拠のあるダイエット方法?
医薬品を使うダイエットと聞いて、「使用するだけでみるみる痩せる」といったイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、GLP-1ダイエットは満腹感を長持ちさせることでカロリーを減らすダイエット方法です。
使用するGLP-1薬剤は、GLP-1を摂取することでインスリンを分泌させる作用を持つ注射や飲み薬。
脳に働きかけて食欲を抑える作用や、腸や消化管に働きかけて消化をおだやかにする働きが期待できます。
GLP-1ダイエットにおける医学的根拠とは
GLP-1薬剤のダイエット効果に対するエビデンスは、以下の通りです。
BMI30以上の肥満者や、BMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を持つ成人1961人がセマグルチド2.4㎎を週に1回、68週間使用。結果、14.9%の体重減少効果が認められました。
BMI30以上の肥満者や、BMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を持つ成人3731人を対象にした実験では、リラグルチドの投与を56週間継続。結果、56週目に平均8.4±7.3kg(1.1~15.7kg)の体重減少効果が認められました。
これらの試験は、GLP-1の適用がある2型糖尿病患者ではなく、肥満の男女を対象としたものでした。
食事と運動の指導が行われるなどの条件はありますが、偽薬を飲んでいたプラセボ群よりも、GLP-1を投与されていた人の方が高いダイエット効果が出たというのです。
このようなエビデンスの蓄積により、アメリカやヨーロッパなどではGLP-1薬剤が抗肥満薬として認可され、ますます注目を集めています。
日本の肥満患者に対するエビデンス
「アメリカやヨーロッパで認可されているなら、日本でも認可される?」という疑問を抱いている方もいるでしょう。
残念ながら日本糖尿病学会医師会は、以下のような見解を示しています。
「2型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていません」(※3)
確かにその通りで、普通体型や痩せ型の人を対象とした研究データやエビデンスはほとんどありません。
日本人を対象とした実験で体重減少効果が認められているケースも存在しますが、それは2型糖尿病患者のみを対象とした試験か、肥満患者を対象とした試験のみ。
「 BMI30以上の肥満患者の体重が減少した」というデータも多く見受けられます。
今後、エビデンスが十分に集まることがあれば、GLP-1薬剤が抗肥満薬として認可されたり、肥満治療薬として新薬が開発されたり…といったこともあるかもしれませんね。
ただし、健康かつ肥満ではない方(BMI30以下)のダイエット効果にまつわる確かなエビデンスはありません。
肥満ではない方には、GLP-1薬剤によるダイエットを実践することより、 GLP-1を食事で増やす方法をおすすめします。
自由診療でGLP-1ダイエットをする場合に望ましいとされる基準
GLP-1ダイエットをする場合に望ましいと言われる基準としては、肥満(BMI30以上)もしくはBMI27以上で肥満に伴う合併症(高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患など)を有している成人です。
また、その中でも、下記のような条件に当てはまるほど効果が期待できると言えます。
- おやつや夜食など、間食が多い方
- 食べたあとすぐにお腹が空いてしまう方
- 気を付けていてもつい食べ過ぎてしまう方
GLP-1は胃の働きを抑える作用を持っているため、普段すぐにお腹が空いてしまう方ほど高いダイエット効果が見込めるでしょう。
一方、以下のような方の場合、GLP-1によるダイエット効果は期待できません。
- BMI18.5未満の痩せている方
- BMI18.5~24.9の普通体型の方
- BMI25.0~29.9の肥満1度の方
またBMI30以上の肥満であっても、もともと食事量が少ない方、ストレスなどでドカ食いしてしまうタイプの方も、効果が現われづらいという意見もあります。
ちなみに肥満外科療法の場合は少々基準が厳しく、内科的治療に抵抗性を示す18~65歳までの肥満患者のうち、以下2つの条件が定められています。
- 減量が主な目的の減量手術のケース:BMI35以上
- 糖尿病を含む合併症の改善・治療を目指す代謝改善手術のケース:BMI32以上
このほかにもさまざまな条件があり、条件に満たない場合は保険適用外(自由診療)となってしまいます。
日本ではGLP-1ダイエットを含めた肥満治療のエビデンスが十分ではなく、保険適用外の治療も多くあります。
そのため、GLP-1ダイエットを選ぶにしても、ほかのアプローチ方法を選ぶにしても、まずは正しい情報を収集することが大切。
その上で信頼できる医療機関に頼ることが肥満解消の近道だと言えます。
GLP-1の副作用や危険性にまつわるエビデンスは?
「GLP-1ダイエットの仕組みやエビデンスはわかったけど、副作用や危険性はどうなの?」と気になっている方もいるでしょう。
GLP-1ダイエットの主な副作用は胃腸障害だと言われており、吐き気や胃のむかつき、腹痛、便秘、下痢といった消化器系の症状がおおよそ1~5%の方に見られます。
また、投与1週目、もしくは薬剤の投与量を増やしたタイミングで現われることが多いようです。
このような副作用が見られやすい根拠は、GLP-1の働きによって胃の蠕動(ぜんどう)運動がゆっくりになる、という変化に身体がびっくりしてしまうため。
胃や腸に働きかける薬剤を使用するため、胃や腸に副作用が現われやすいのです。
つまり、GLP-1薬剤による胃腸障害は、薬剤の効果が出ているという証拠だと言えます。
中には、低血糖や急性膵炎、腸閉塞といった重篤なリスクを心配する声もあります。
しかし、この問題に対しては以下のようなエビデンスが示されているため、過度な心配はいらないと言えるでしょう。
GLP-1受容体作動薬は、血糖を改善することに加え、血管内皮細胞保護作用や抗血小板作用や直接的な神経保護作用が認められました。(※4)
GLP-1製剤は血糖値が高いときにだけインスリンが分泌し、血糖値が低いときには効果が弱まる仕組みのため、低血糖のリスクは低いと言えるでしょう。
GLP-1受容体作動薬を含むインクレチンベースの薬の使用は、他の経口抗糖尿病薬と比較して、急性膵炎のリスクを増加させないことが認められました。(※5)
とはいえ、過去に膵炎になったことがある人などは、急性膵炎を起こすリスクがゼロではないため注意しましょう。
インフルエンザなどの感染症時にリラグルチドの投与を行ったことでイレウスが起きてしまった可能性が指摘されました。
また、イレウスを起こした患者には、便秘症、糖尿病末梢神経障害障害を持っていたことや、罹病期間が長いといった共通点がありました。(※6)
このことから、健康的な方がGLP-1薬剤で腸閉塞を起こす可能性は低いと言えます。
結局GLP-1ダイエットは危険?
食事制限や運動療法を併用しながらGLP-1ダイエットを行うことで、食事量を減らしながら体重減少を目指すことができます。
ただし、2021年時点でダイエット目的の処方は保険適用外。
日本糖尿病学会でも適正な使用が求められており、「自由診療でGLP-1を使用しても絶対に安全」とは言えません。
とはいえ、絶対に安全な医療など存在しませんし、どのような治療法にもリスクは付きものです。
また、保険適用でダイエットをしたいのであれば、2型糖尿病の検査を受けてみるのも1つの方法だと言えるでしょう。
糖尿病や肥満による合併症などが認められない方がGLP-1ダイエットをする際は、信頼できるエビデンスを参考にし、信頼できる医師に相談することが大切です。
安易に自己判断するのは厳禁です。健康的に痩せるためにも、正しい知識を身につけていきましょう。